ショート落語 『粗忽長屋』

落語を短くわかりやすく

「えらい人だかりやな。なんやこれ?」

「行き倒れでんねん」

「行き倒れてなに?」

「道で人が死んでまんねん」

「ちょっと見してんか」

「これこれ、関係ない人が勝手に前に出るな」

「あっ!」

「知ってる人か?」

「知ってるもなにも、これ、わいの友だちのよっちゃんや」

「ああ、よかった。これでやっと身元がわかった」

「いえね、今朝もよっちゃんとしゃべってましてん。今日はなんか調子悪いゆうて。気ィつけなあかんぞゆうてましてんけどな。こんなとこで死んでるやなんて」

「いや、ちょう待ちや。この人、今朝から死んでまんねん」

「早速、本人に知らせてきますわ」

「知らせるて何を?」

「お前、道頓堀で死んでるぞゆうて」

「いや、あのね、この人はここで死んでまんねん。死んでる人に死んでることを伝えるてどういうことですねん?」

「どういうこともこうゆうこともとにかく本人に知らせな」

「だから本人て誰ですのん?」

「ここで死んでるよっちゃんやがな」

「わけわからん人でてきたで」

「とにかく行ってきま」

「ああ、ああ、行ってしもた」

   ―――

「おいっ!よっちゃん!」

「なんや、まっちゃん」

「お前なあ、そんなとこで寝ころんでる場合ちゃうで」

「寝ころんでる場合て、今日はわい、休みやがな」

「それが休んでる場合ちゃうねん。落ち着いてよう聞けよ」

「いったいどないしてん?」

「お前な、お前、お前はもう死んでるで!」

「何をゆうんやお前は。わいはこうして生きてるがな」

「それはお前の思い違いや。俺はこの目で見てきたんや」

「見てきたて何を?」

「お前が死んでるとこを」

「ほんまか?」

「そうやがな。お前、今朝もゆうてたやろ。今日はなんや調子悪いゆうて」

「そういえば調子悪かったな。夕べ道頓堀で飲んでて、二日酔いかなんか知らんけど今朝から調子が悪い」

「見てみィ。そやさかいお前、道頓堀で死んでたんや」

「いや、わい、道頓堀から帰ってきてるで」

「あのな、ようく思い出してみィ。お前、道頓堀でふぐ食うたやろ?」

「ああ、ふぐは食うた」

「そのふぐにあたって死んでしもたんやがな」

「あっ!そうか!ほな、わい、もう死んでんねんな」

「そやがな。そうとわかったら早速いこう」

「どこへ?」

「道頓堀やがな」

「何しに?」

「お前の死体を引き取りにや」

「なんやようわからんけどまあええわ」

   ―――

「ごめんやっしゃ。本人連れてきましたで」

「また来たで、この人」

「おい、よっちゃん、よう見てみィ。これ、お前やろ?」

「あっ!あ~っ!」

「おかしな奴がまた一人増えたがな」

「間違いおまへん。これはわいや。おい、わい、こんなとこで死んでまうやなんて」

「いや、あのね、わけのわからんこと言わんように。あんたがあんたの死体だいてどないしまんねん」

「本人が本人や言うてんねんから間違いおまへんやろ。さあ、よっちゃん、よっちゃんを背負ってよっちゃんちへ帰ろう」

「ちょっと待った、待った!勝手に死体をおぶったらアカンて」

「ちょう待てよ。おぶわれてるわいは確かにわいやが、おぶってるわいはいったい誰だろう?」

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